ある子供

 ダルデンヌ兄弟『ある子供』を観る。


 18歳のソニアは、男の子を産み母親となった。子供の父親は20歳の恋人ブリュノ。だが父親としての実感も自覚もない。真面目に働いてほしいというソニアの願いをよそに、彼は手下の少年を使って盗品を売りさばく暮らしを続ける。ある日、ブリュノは赤ん坊を高く買い取る組織があるという話しを耳にする…。


 ブリュノは徹底したダメ人間である。立ち止まって考えることをしない。目の前のものにだけ夢中になる。反射する。心底悪い人間ではないが、彼は、どうしようもなく浅薄である。「ある子供」とはブリュノのことである。


 「子供」は、ごく単純な社会的関係のうちに閉じ込められている。それ以上の広がりについて、具体的に思いを馳せたり責任を取ったりすることはない。逆に、そのような、縁のようのなものを引き受ける者を「大人」というのではないか。「大人」は民族のことを話したり、アフリカの飢えのために行動したり、未来の動植物を想って環境問題に熱をあげたりする。大人には大人の浅薄さがある。がそれは、少なくとも子供のものとは異質である。


 ブリュノは、手下の少年のために動くことで、大人になったと言える。彼はこれからも浅薄であろう。いずれまた過ちを犯し、違う質の涙を流したり、ベビーカーともスクーターとも違う形の重荷を押して歩いたりするだろう。しかし、物語の最後に彼が流す涙は、その瞬間限りの、ある種の通過的儀礼としての、極めて特別なものではあったのだと思う。


ある子供 [DVD]

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