不完全性定理

 野崎昭弘『不完全性定理』読了。
 ゲーデルが二十五歳で出版した「不完全性定理」(1931)は、当時の数学界の巨匠ヒルベルトが提唱した「形式主義によって超数学を展開しようという計画」に対して、原理的な限界を示す衝撃的な証明だった…。


 大学一回生のときに「プログラミング言語の基礎理論」なる講義をとったが、今にして思えば、あれば超数学であった。と、十年が過ぎてようやく分かった。教授、先にその辺の文脈を説明して下さい。
 超数学とは、数学についての数学である。公理系をもとに、数学の形式を問題にする諸理論であり、たとえば、数学は絶対に安全確実か、といったようなことを扱う。一般的に、最も客観的で厳密であると思われる数学だが、超数学ではその基礎の基礎から改めて考えを起こす。たとえば「UならばU」(同語反復)という、自明に思える公理から一つ一つ仮定していく。


 ゲーデル不完全性定理を簡単に言うと、次のようなものである。
 「自然数を含む体系Zが無矛盾ならば、正しいのに証明できない論理式がある。」
 我々の言語も、当然、自然数を含む体系Zに含まれるので、正しいのに証明できないことがあるということになろう。人間の知性にはある種の限界がある。直感的にそれは大いにあり得ることだろうが、著者の指摘するとおり、それが“厳密に”証明されたということが驚異的だ。


 不完全性定理については、高校生のときに友人と話題にした気がする。我々は人生の不完全性に興味があったのだ。もちろんそれは、内実を理解しないままの、おかしな熱を帯びた議論であったろうが、懐かしいことではある。


不完全性定理―数学的体系のあゆみ (ちくま学芸文庫)

不完全性定理―数学的体系のあゆみ (ちくま学芸文庫)