福さん
はなれへ行く。
慶応大の熊倉さんが、一年のフランス留学を終え帰国したので、皆で話を聞く。
熊倉さんは五十歳くらいだ(多分)。残りの人生を見据えて、本当にやりたいことに集中しようと考え、留学中にユーラシア大陸を横断したという。トルコからアゼルバイジャン、中央アジアの幾つかの国を経て、中国・上海へ至る旅。
熊倉さんの視線は、相当にクールだ。多くの人は、もしそのような旅をしたならば、幾ばくかの興趣を添えて、人に話して聞かせるだろう。しかし、彼の話に出てくるのは、無表情なアゼルバイジャン人であり、友情と金銭をない交ぜにする人々のことである。旅情のようなものは、表面上感じられない。
彼は写真を撮るのが嫌いだという。確かに、熊倉さんがぽつぽつと見せる旅の写真は、あまり上手くない。面白みも少ない。このことは、彼のスタイルをよく表現しているのではないかと思う。
造形大の福のり子さんにもお目にかかる。
大阪の、エネルギッシュな女性を体現したような方だ。僕は、わりと彼女のようにオープンな方が好きだ。