寧楽逍謡

 京都芸術センターの担当になる。


 夜、素謡の会「寧楽逍謡」に参加。
 遷都千三百年を控え、盛り上がる奈良にいち早く焦点を当てた企画で、一年を通じて奈良に題材をとった謡六曲を紹介する。第一回は、奈良の猿沢池にゆかりを持つ『采女』を取り上げる。


 ナビゲーターの田茂井氏によると『采女』の筋は次のようなものだ。
「諸国行脚の僧が奈良の春日神社に参詣する。
 夜更け、朧月夜に一人の女性が現れ、木を植える。僧が声をかけると、春日の神の由来や木を植える謂れを語り、僧を猿沢の池に案内する。仏事をなして欲しいという女。僧が誰の為にかと問う。女は答え、昔、帝の寵愛を失った采女がこの池に身を投げて空しくなった。帝は「吾妹子が寝ぐたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞかなしき」と読み、嘆かれた。下々の身をもって君をお怨みしたのは愚かなことだったと語る。かくいう私こそ、その采女の亡霊だと明かし猿沢の池に沈んでいく。(中入)
 僧は池の水際で弔いの経を読む。
 古の美しい姿そのままに采女の霊が現れる。僧の回向に謝し、自分もかの龍女のように男子に変成し、仏果を得て、この興福寺にいられると喜び、昔の曲水の宴の様を思い起こして舞い戯れる。やがて御帝の萬代までの栄を祈り、再び波間に消え去る。」


 『采女』は、十五世観世大夫元章の大改革により、現在二つのバージョンが伝わるという。古代・中世と近世の愛憎の考え方について、田茂井氏が短くも、味わい深い解説をして下さったが、もう忘れた。