日進

 愛知・日進をぐるぐると走る。


 日進市名古屋市豊田市に隣接する。市営地下鉄の開通で大きく人口が増えた町だそうで、とは言え、辺りにはまだ田畑や森林が多く見られる。ダルムシュタットの高速道路のような道も走っており、当地での自動車の存在感を強調する。


 大学の頃、愛知県芸の友人を訪ねたことがある。県芸は長久手町日進市の隣に位置する。当時はそんなことは知る由もなかったが、道を走っていると、いつの間にか遠い記憶の中の風景を走っていることに気づき、虚を突かれる。
 その角を曲がると坂があって、古びたアパートがあったんだよな、と想像する。その記憶には、幾つもの空想や、また違う別の記憶が入り混じって、もう今となっては判然としない。判然としないが、夜と朝の下らぬ白けた雰囲気や、それにもかかわらずいびつに積み重なった熱量のことだけは、瞬間、ありありと感じる。


 今、このように日進を走ることになろうとは想像もしなかった。


 日進の町をぐるぐると走ったのは、無為な時間を持て余してのことであったが、この地の道を覚えるためでもあった。町の一隅には妻がかかる産院があり、時が来て、連絡があったとして、離れて暮らす僕が、一人で医院に辿り着けるようにという考えがあってのことだ。
 僕はこの町のことをよく知らぬ。何かがあっても、この土地を自在に動くことができない。


 ぐるぐると、田畑の間を、ファンシーなケーキ屋や、図書館や、国道沿いにあるようなラーメン屋を眺めながら走る。時間というものは、このようにして、我々を見知らぬ町へ連れて行く。ラジオから流れる曲の、不可思議なリズムに乗って、緩やかにハンドルを切っていく。





大きな地図で見る