普天間基地

 普天間基地問題について少しまとめてみる。
 普段テレビを見ず、新聞も読まない。ウェブ上の情報のみで書くので、間違いがあれば御指摘ください。


 前提の情報、数値編。
 沖縄県が日本の国土面積全体に占める割合は、0.6%。その地域に、在日米軍の専用施設面積全体の75%が集中している。この面積は沖縄県面積の10%に当たり、特に、沖縄本島では19%に達する。
 一方、県の人口130万人に対し、軍関係者(軍人やその家族など)の数は4万5千人。県人口全体の3.5%を占めている。


 前提の情報、経緯編。
 沖縄県宜野湾市にある普天間飛行場について、住宅地に位置していること、地元駐留米兵による犯罪が相次いだことなどから、移設を求める声が高まっていた。2006年5月、移設について日米間で合意(当時は第3次小泉内閣改造内閣の終盤で、官房長官安倍晋三外務大臣麻生太郎)。合意事項の要点は次のとおり。
 ・普天間飛行場を含む人口密集地域の土地の返還
 ・普天間飛行場の移設先として、沖縄県名護市沿岸部に滑走路を建設
 ・沖縄県から、軍関係者1万7千人をグアム基地に移転
 ・グアム移転費用のうち、61億ドルを日本が負担
 2009年衆院選時に、鳩山現首相が「最低でも沖縄県外への移設」と主張。社民党国民新党との連立時にも「在日米軍基地の在り方について、見直しの方向で臨む」とした。これを受けて、普天間飛行場の移転先について議論百出。民主党では、元々の計画をベースに、機能の一部を鹿児島県・徳之島等に移転するよう調整をしているが、各所で強い反対にあっている。
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 僕の論点は以下の4点。


 鳩山首相の評価について。
 民主党及び鳩山首相は確かに失策を犯している。政権としての案件処理能力は著しく不調であると言えよう。が、そもそも、沖縄の基地問題は超複雑な難問である。その複雑さは、自民党が数十年をかけてこれを醸成し、強権や利権や無関心によってフタをしてきたものだ。鳩山内閣は、もちろん正当に批判されるべきだが、今すぐ退陣を求められるとすれば、それは少々アンフェアであろう。
 スーパーポジティブに解釈すれば、鳩山首相の、直ちに誤りを認め、自己反省と謝罪を欠かさぬ態度(育ちのよさともサンドバッグ的精神とも言える。)は、過去の政治には久しくなかった、好ましいスタイルではないか。


 そもそも何故、沖縄に基地が集中しているのか。
 外交評論家の岡本行夫は次のように指摘している。「そもそも1960年の日米安保体制は、沖縄とは無関係につくられた。したがって、日本本土を防衛する体制は、沖縄抜きで完結していた。そこに、米軍基地と兵員を満載した沖縄が返還された。日本の防衛に本土プラス沖縄の基地・兵力はいらないので、基地の削減が可能になった。そこで、本土は自分たちの周りの米軍基地から削減していった。沖縄返還後、本土の米軍基地が65%削減されたのに対し、沖縄は15%だけにとどまった。その結果、米軍基地の75%が沖縄に集中することになった」
 これは、上記の問いへの正確な回答というわけではないが、本土の身勝手、ということを示唆しているように読める。これは、別に僕が選択をした結果ではないが、その疚しさを原罪のように引き受けて、語り始めねばならないところだろう。


 在日米軍の経済効果について。
 基地問題を人と話しているとき、時々、「でも基地があることで経済的効果もあるよね」みたいな話になる。本当か。
 直接的には、米軍による雇用と需要の創出があるし、間接的には、沖縄振興特別措置法のような優遇措置が考えられる。あるいは国際公共財としての性格もあるだろう。このようなメリットと、デメリット(土地が利活用できない、騒音、犯罪や事故への不安等)とのコストバランスについては色々な考え方があろう。明快に計算できるかも知れない。
 が、経済効果以前に、基地のある地域の方々にとってそれが与件である、という手続上の問題を考慮すべきではないか。逆入札でもやって、全国民合意の上で経済効果を云々するなら話は別だが。


 抑止力について。
 在日米軍の意義は「抑止力」にある、ということになっている。鳩山首相がそう明言している。
 一義的には、韓国と北朝鮮の衝突、中台紛争、北朝鮮の軍事行動を抑止するということであろう。外交的効果や、他国から日本への攻撃の抑止という意味もあるかも知れない。これらの一部はソフトパワーで代替されるとは言え、極端な立場(戦争は金輪際起こらないとか、戦争が起きても非暴力抵抗を貫くとか)を取らなければ、少なくとも抑止力論のテーブルには着かなければならないだろう。
 が、「抑止力」の内実は相当に複雑である。関係諸国、日本、アメリカの政治的及び経済的関係。これまでの歴史と、未来への思惑。各国国内のパワーバランス。軍事力の性格。これら、刻々と変化する可能性の変数を統合的に判断することは簡単なことではない。
 「抑止力」論はある程度妥当なような気もするが、それは不断の精緻な議論を踏まえることでしか採用され得ない。(従って、鳩山首相の明言は、これ自体、批判の対象になってしまう。)