ヒップホップはアメリカを変えたか?
S・クレイグ・ワトキンス『ヒップホップはアメリカを変えたか?』読了。
ヒップホップのパワーとは?その未来とは?病める現代アメリカの社会・政治・経済を刺激してきたヒップホップ・カルチャー。その誕生から絶頂、そして明らかになる様々な問題を突き、ヒップホップの新たな可能性を考察する、ポップ文化研究の画期的入門書!
本書では、分量の半分を割いて「政治運動におけるヒップホップ(HH)」についてまとめられている。取り上げられるテーマは以下のとおり。
一、HHが政治勢力たり得ること
一、若年層の社会運動にHHのスタイルが取り入れられていること
一、HHにおけるジェンダー問題
一、アカデミズムの中のHH。
ここで挙げられる幾つもの事例は、アメリカの諸事情に通じない僕にとっては、極めて有意義なものであった。デトロイトのキルパトリック市長*1のことなど、多くの手がかりを得られた。
ただし、本書にはいくつかの問題もあるように思う。
まず、著者は幾つかのところで「公民権運動世代とHH世代」という対比をしているが、これはやや模式的に過ぎるであろうと思う。
ここでのHH世代という括りは、1970年代〜1990年代生まれのアメリカ人、というぐらいに理解しておく方がよいだろう。(これを前提として、このカテゴリーの思考/志向に、HHが影響を与えていることは、また、その影響が、実社会(たとえば政治、行政、経済)において結実していることは説得的に描かれている。)
また、HHが、HH世代に与えた影響についても、今一つ内実がはっきりしない。
HH(のスタイル)は、一見、自明なようだが、必ずしもそうではない。時代によっても地域によってもその内実は相当に変化する。このような定義の揺らぎのせいで、HHが引き起こす影響についても明確になっていないと思う。HHに、思想的な核があるとすれば何だろう?、という根本的な問いを、本書はやり過ごしてしまっている。
ヒップホップはアメリカを変えたか?―もうひとつのカルチュラル・スタディーズ
- 作者: S.クレイグワトキンス,菊池淳子
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 単行本
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*1:1972年生まれ。31歳で市長選に立候補し当選。ヒップホップ市長と渾名される。