メトロポリタン

 メトロポリタン美術館へ行く。


 世界三大美術館の一つ。
 巨大なフロア全体に、とんでもない収蔵品がズラズラ並ぶ。
 収蔵品は三百万点に及ぶという。展示されているのは二、三割程度だそうだが、それでも、全ての部屋を一日できちんと観るのは不可能だ。
 これが全くの私立の美術館というのが凄い。


 極めつけはエジプト部門の『デンドゥール神殿』か。神殿がそのまま移設、復元されており、この遺跡のためだけに巨大な展示室が新設されたのだそうだ。(トマス・ホーヴィング『ミイラにダンスを踊らせて』に詳しい。)


 今、気軽に「極めつけ」と書いたが、極めつけは他の諸室にも遍在している。近代西洋絵画に限ってみても、名のある作家の代表作はほとんど揃っている。ヨーロッパ装飾美術あたりになると、最早、とんでもないということしか分からない。アフリカ美術部門では笑うしかない。その奥には甲冑のコーナーが見えていたのだが、ついに辿り着くことはできなかったし、東洋美術に至っては一切目にすることができなかった。おそらく未見の部門でもそれぞれに超一流品が押し並んでいることであろう。


 コレクションの展示は世界最高レベルと言ってよいと思うが、企画展も劣らず素晴らしい。
 現在の目玉は、アレキサンダー・マックィーン「Savage Beauty」展。一編の壮麗な映画を観るような展示。昨年の二月に亡くなった鬼才の回顧展を、この時期に、身震いするほどのレベルで達成するのは、極めて難しいことであろうと思う。
 写真部門では「Night Vision: Photography After Dark」と題された小企画が展示されている。吉行耕平の写真を実見するのは初めて。ニューヨークの個展でかなり話題になったらしいが、メトロポリタンはしっかり押さえている。


 疲れたので、玄関ホール二階のコリドーでカクテルを飲む。
 向こうではピアノの演奏会が行われているらしい。花の飾られた一階のホールへは、傾き始めた日の光が直接に差し込み、一際眩しく輝いている。行きかう人々。
 ここに文化遺産をかき集めた人々の恐ろしい程の熱量、またそれを、世界中から見に来る数知れない人々。その総体のことが、眼前に見下ろすホールの中に、象徴的に浮かび上がる。


 http://www.metmuseum.org/