「織」を極める

 京都国立近代美術館「「織」を極める 人間国宝 北村武資」展へ行く。


 北村武資は、「羅」、「経錦(たてにしき)」の分野で重要無形文化財(いわゆる人間国宝)に指定されている。と言っても僕には「羅」も「経錦」もよく分からない。古代以来の技法で、現在では絶えてしまったものを、北村が復元したのだそうだ。
 羅は絹の織物ということだが、とても薄い。糸がうにゃうにゃと奔放に走り、網の目のようになっている。ガーゼ、ないしはレースのような感じである。経錦は、その名のとおり、経糸で色を表現するものだそうだが、そう言われても何が凄いのかは得心できない。
 しかし、その技法のことは分からずとも、この布が何かとんでもないものであることは伝わってくる。ジェフ・ベックのギターのよう、と言うべきか。超絶的である。
 



 超絶的なのは、おそらく多分、北村の手捌きもそうなのだろうが、彼の心の在りようもそうなのであろうと感じさせる。こんなもん作ろうと思わんぜ、普通。


 北村は森口華弘の染織研究会に出入りしていたという。森口華弘の次男が森口邦彦。親子で友禅の人間国宝になっている。
 先日の文化政策史講座で森口邦彦氏に講師をお願いしたのだが、伝統工芸の継承について、氏は大略次のようなことを言われた。
 「技を伝えることは本当に難しい。私たちは結局、作品を残すことしかできないのではないかと思う。技が次世代に伝わらなくとも、作品が残っていれば、隔世遺伝のように、それを復元しようという人が現れるかも知れない。我々は、今や、その可能性に賭けるしかないのではないかとも思う。北村武資がまさにそのような仕事をしている。彼の技法は、既に絶えていたものを、彼が独自に復元し精練したものだ。北村がいなくなれば、その技法はまた消え去るだろう」


 ちなみに、企画展の上階では、館のコレクションが展示されており、北村武資に関連する作品も出展されている。
 中央スペースの正面に森口華弘の作品が、またその脇に森口邦彦の作品が置かれており、その両方で、華弘の生み出した「蒔糊」の技法が使われているのが見て取れる。華弘と邦彦の、継承と創造。そして、その周囲にいた北村健武資の、継承と創造。学芸員の静かな配慮を感じさせる構成である。