背中の記憶

 長島有里枝『背中の記憶』読了。


 写真家・長島有里枝、はじめてのエッセイ集。偶然見つけたアンドリュー・ワイエスの描く女性の背中が、大好きだった祖母の記憶を鮮やかに甦らせる。独自の視線と精緻な筆致で綴る、過去の瞬間と家族の肖像。


 イメージの、息の長い文章だ。もう途切れるかというところで、二度、三度、転調して途切れない。定型的な感傷から、それを相対化するところを経て、なおもう一歩踏み出す。
 また、ところどころで、すっとピントが合って、記憶のディテールが浮かび上がってくる。
 時としてそれらは過剰で、その過剰さが却って単調に見えもするのだが、しかし十分に才気を感じさせる。


 幾つかの文章の中でも、祖母のことを綴った二つが印象深い。
 そこでは、祖母の背中の記憶のことと、彼女が遺した“花の写真”のことが描かれている。他篇に比べても抑制がきいているのは、おそらく、二重に隔たったもののことを扱っているからではないかと思う。

背中の記憶

背中の記憶