ツェ・スーメイ

 水戸芸術館「ツェ・スーメイ」展を観る。


 ルクセンブルグ出身の新進気鋭作家ツェ・スーメイの日本初の個展。彼女は二〇〇三年のベニス・ビエンナーレルクセンブルグ館に金獅子賞をもたらし、以来、世界各地の個展や企画展に招待されている。


 感銘を受けたのは「Snowに関する1000の言葉」。ペルシャ絨毯風の模様が床板に刻まれ、一隅に大きなスピーカーが立っている。スピーカーからはSnow(レコードなどで、本編が始まる前に入るノイズ)が聞こえる。


 Snowは、僕にホワイトノイズのことを想わせる。
 ホワイトノイズは、全ての周波数で同じ強度となるような波のことである。この波が、光として現れるとき、白色であることから、そのように名づけられている。(ちなみに音として現れるときは、テレビの砂嵐のときの音に近い。)
 ホワイトノイズでは、全てのエネルギーが等しい。そして極度に不規則な波である。ホワイトノイズは一定の操作を経ることで、様々な任意の波に整形し得る(シンセサイザーではこの技術が用いられている)。このようなホワイトノイズの性質は、自由民主主義のそれに似ている。


 「Snowに関する1000の言葉」では、巨大なスピーカーが威圧的な感じを与える。率直に言うと、それは、僕にアウシュビッツのことを想起させる。そこからは”本来ないことになっている音”としてのSnowが、自由と平等の矛盾が、静かに流れている。それは、誰の囁き声であろうか。


 展覧会全体については以下に詳しい。


 http://journal.mycom.co.jp/articles/2009/02/18/mito/index.html