「新しい郊外」の家

 馬場正尊『「新しい郊外」の家』読了。


 ふと郊外の可能性に気づき、勢いで房総に土地を買い、家を建て、都心との二重生活を始めてしまった、「東京R不動産」のディレクターを務める建築家・馬場正尊。涙ぐましい資金調達から独特な設計、彼のヴィジョンに共感する人々との交流などにより浮き彫りになる日本の住宅問題、都市と郊外、働くことと生きること。建築は人の生さえも変える。都会の中で自分の人生を設計し直そうとするすべての人に捧げる。
 とのこと。


 友人が馬場氏のところでバイトをしていたので、その活動を何となく知っていた。本書は、本屋で立ち読み、彼が妻と別れるくだりを読んで感銘を受け、購入した。
 「一方の彼女の気分を数年後に聞いたのだが、中目黒から多摩に向かう高速道路は、まるで新しい生活への滑走路で、荒井由美の「中央フリーウェイ」をいつのまにか口ずさんでいたらしい。」云々。


 不動産について考えるのは、なかなか楽しいことだ。実家にいた頃、不動産のチラシ(毎週土曜日に新聞に折り込まれる)を眺め、それらの間取りや地理、その場所での架空の生活に想いをめぐらせていた。周囲に聞くと、そのような楽しみを共有する人はわりと多い。その点、「東京R不動産」はとても楽しい。
 京都で「東京R不動産」に近いのは、イタリア会館地下の「ルームマーケット」だろうか。古い一軒家やアトリエに使えそうな倉庫を仲介している。


 ROOM MARKET-ルームマーケット-


 著者は、郊外の可能性に気づき、と書く。が、これはとても東京的な発想だと思う。京都には、そもそも郊外というものがないのではないか。たとえば北山や嵐山、伏見、山科のあたりは、中心部から外れるが、郊外ではないだろう。滋賀や高槻、奈良なども、京都の郊外ではない。京都には郊外がない。


つづく

「新しい郊外」の家 (RELAX REAL ESTATE LIBRARY)

「新しい郊外」の家 (RELAX REAL ESTATE LIBRARY)