ドン・キホーテの旅

 牛島信明ドン・キホーテの旅』読了。


 作品の全体と細部を丹念に読み解きながら、遍歴の騎士の魅力に新たな光を投げかける。従者サンチョ・パンサはもちろん、キリスト、芭蕉、フーテンの寅さんを招き、この、人間の想像力が生み出した最高の果実をより深く味わう。


 セルバンテスドン・キホーテ』は近代小説の祖とされている。ドストエフスキーによって「これまで天才によって創造されたあらゆる書物の中で最も偉大な、最も憂鬱な書物」であると評されており、また、世界の著名な文学者の投票による「史上最高の文学百選」で一位に選ばれてもいる。その入り組んだメタ・フィクション性だけを取っても奇怪であり、軽重を問わぬ懐の深さは、確かに底知れぬ感がある。


 『ドン・キホーテの旅』はそのような事情を要領よくまとめ、また、新たな視点をも提供している。『ドン・キホーテ』への入門書として、誠に最適なもののように思われる。


ドン・キホーテの旅―神に抗う遍歴の騎士 (中公新書)

ドン・キホーテの旅―神に抗う遍歴の騎士 (中公新書)