油の話

 ロマンザで髪を切る。


 オーナーの松山さんとは、いつも政治や経済、映画、本の話をするが、最近は子育てネタと、石けんの話がこれに付け加えられている。


 松山さんは、元来凝り性な方で、さらに陰謀論に興味深々だ。それらの素養が、彼の日常のなりわいとスパークしたところで、一つの問題意識として「石けん」が浮上したのだと思う。
 石けんは、油脂でできている。一般に売られている石けんやシャンプーの類は、核となる油に、様々な本来不要とも言える添加物を加え、広告費を上乗せして販売されている。松山さん的には業界の構造も気になるし、そもそも安全で質の高い「石けん」とはどのようなものか、政治的にベストな「石けん」像とは果たしてどのようなものか、日々、考察を重ねているらしい。


 松山さんのよいところは、思考だけではなくて実践が伴っているところだ。
 彼は、化学の本を読み、自宅で実験を重ねて石けんを作り、お店で販売し、遂には、恵文社などに卸まで始めている。ワックスの開発にも乗り出し、来年には、店舗内に工房を作って専任のスタッフを雇いたい、と話す。大変なことだ。
 彼の目下の夢は、調香師になることだという。一体どこに向かっているのかさっぱり分からないが、何となく凄みはある。


 ロマンザと油脂(あぶら)道場