東京ノート

 青年団東京ノート」を観る。


 粗筋は概ね以下のとおり。
 美術好きの長女の上京を機に、普段はバラバラの親族たちが、美術館のロビーで待ち合わせる。彼らはそれぞれに問題を抱えているが、当面、共通して頭を悩ませるのは親の面倒をどのように見るか、ということだ。一方、背景には、欧州で起きているらしい大きな戦争が不穏な影を落とす…。


 「東京ノート」の舞台は美術館だが、今回の会場は国立国際美術館という本当の美術館であった。館のトイレやレストランが、劇中のトイレやレストランに重ねられる。国立国際の階段を使った、人物入退場の処理も軽妙。


 演劇は、洗練されたスタンダードとしての風格を示す。特別の派手なものはないが、人物の関係を的確に掴んだ役者たちが、丁寧に、余裕をもって発語を重ねていく。青年団の演劇は初見であったが、一つの規範として考えるに足るだろうと思う。
 初演は一九九四年。物語は、過去の戦争の抽象を幾つものレイヤーとして含むであろうが、直接的には一九九一年の湾岸戦争を念頭に作られたのではないかと思う。当初、劇に設定された二〇〇四年という時間を、既に現実が通過し、今、設定は二〇一四年に書き直されている。久しぶりに一昔前の小説を読むような、スンとした感じを覚えなくもないが、ゆっくりと物語が古典へと精錬される、確かな手触りもある。