腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

 本谷有希子腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』読了。


 女優になるために上京していた姉・澄伽が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。その日から澄伽による、妹・清深への復讐が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を晴らすために…。


 本谷有希子
 一九七九年生まれ。劇作家・演出家、小説家。
 元々は演劇畑の人だが、近年、三島由紀夫賞芥川賞にそれぞれ複数回ノミネートされており、小説家としても期待を集めている。(かと思うと、とうとう岸田國士戯曲賞も受賞した。)


 本谷の幾つかの作品に通じるのは、底意地の悪い自意識の取り扱い方だろう。
 本作でも、登場人物それぞれの執着するもの(愛するもの)が、デフォルメされ、過剰な形で描かれる。それは地の文の、たとえば状況や空間配置の、冷静な描写によりいっそうグロテスクに見える。


 『腑抜けども…』は、どこまでもテンションの落ちぬ物語である。始めから終わりまで一本槍に才気に満ちて見える。しかし、そのことは、読む者に、メタレベルでの執着(愛)を感じさせる。中編小説として、あるいは戯曲としてはそれはギリギリに成り立つであろうが、世界は愛だけでは終わらぬのである。
 愛に満ちた世界が破滅した、その荒野の向こうに続く道をこそ、本谷の筆によって読んでみたいと思う。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)