オープンスタジオ

 京都オープンスタジオ2010へ行く。


 昨年に引き続いての開催。
 「七つのスタジオが同時に空間を開放し、作品展示やカフェ、ライブなどを行います。…このイベントはアーティストのコミュニティーやネットワークの強化にも貢献します。京都の底は温まってきています。」


 http://kyoto-openstudio.jimdo.com/


 京都市では、京都文化芸術都市創生計画中、五つの重点項目の一つに、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」という事業を掲げている。今回は、同事業の参考のために、桂エリアの四つのスタジオを見て回った。


 興味深い点は幾つかある。


 一つは、そもそも、これだけの数の共同スタジオが京都市内に成立しているという事実だ。以前はなかなか考えられなかったことだと思う。
 聞いた話を総合すると、名和晃平に代表されるような、現在三十代半ばから四十代くらいのアーティスト(とりわけ京都市立芸大出身者)が、伏見、桂、亀岡などに共同でアトリエを構え、現在の状況を先導してきたのだという。市立芸大の石原准教授は「名和らの成功を身近にし、一つのモデルとして共同アトリエが普及したのではないか」と言う。


 もう一つは、これらの共同スタジオが、京都全体にとって、今や重要な資源に見えるということだ。
 当初は点だったものが、線となり、面となる。参加スタジオの一つAASを運営するアーティスト・グループ・Antennaは「このイベントが、京都の新しい動きを作るきっかけになることを期待している」と言う。
 世界中でアート・クルーズ的な動きが見られる今、複数のアーティスト・グループが同時期にアトリエを開放することは、それだけで一つの観光資源になり得る。日本において、現代美術にコミットしている者の八割前後は関東圏在住であろう。今回のようなイベントが、芸大の修了展や大型の企画展、アート・イベントと時期を合わせて開催されれば、彼らの足を京都に向けることができるのではないか。
 同イベントは、今のところ、市立芸大の卒業生が中心となっており、場所も京都市郊外の桂周辺に集中している。しかし、同様の共同スタジオは、精華大卒業生らによるstudio90など、京都市内だけでも二十から三十に上るという。大変なことである。
 hanareは、アーティストの共同スタジオではないが、この京都の新しい動き、文脈の中に置くこともできると思う。


 そしてもう一つは、もちろんこれが、「若手芸術家…」事業にとって極めて示唆的であるということだ。
 今回のオープンスタジオにさんかしているグループの中には、実際にスタジオ内に居住スペースを確保しているところもある。「若手芸術家…」事業で考えていることを、もう既に実現していると言える。そうでなくても、多くのアーティストが共同アトリエの近く(車で十分以内くらい)に住んでおり、職住近接という、一つの方向性を明確に示している。
 「若手芸術家…」事業の目指すところは、京都に住みながら制作を続けることができる、というモデルを、行政として強力に示し、若いアーティストの流出を食い止めることである。同事業は新しい生活様式を示そうとしていると言えよう。
 さらに付け加えるならば、クリエイティビティーの一極集中を変革すること、あるい文化芸術をめぐる就労構造の転換ということも視野に入るだろう。マルクス風に言うと、それは革命である。


 京都では、一昨年の秋にタカイシイ、児玉画廊などの有力ギャラリーが進出し、また、モリユウ、ボイスがスペースを移転拡大し、注目を集めた。muzz、ニュートロン、SWPなどの新興ギャラリーも目立った動きを見せている。いくつもの質の高いグループ展がアーティスト主導で行われており、今回、共同スタジオの存在が一気に前面化した。さらに夏から秋にかけて、いくつかのアートフェアが立ち上がる。
 確実に、「京都の底は温まってきてい」ると言えよう。