通夜

 祖母の通夜、葬式に出席するため、岐阜へ行く。


 葬儀というのは、もっとも広く親族が会する場の一つであろう。そのような場では、初めて会う親戚から、意外な血縁の歴史を聞かされることになる。
 親戚にはピアニストや富豪がいるだの、藤原一族の末裔だだの、出鱈目な話が百出する。が、心配しなくとも、それらは現在の僕に具体的な影響を一切及ぼしていない。


 通夜の席の主要なトピックの一つは、葬儀にまつわる様々な作法について、であった。宗派によっても、地域によっても、葬式のやり方は随分と違う。坊さんへの金の包み方はどうするだの、法要の香典返しはどうするだの。それを、頑固な大叔父や、滅茶な叔母が引っ掻き回して、微妙なよそよそしさを漂わせながら、どちらでもいいようなことを延々と話し合う。
 夜は更ける。
 粗方の人が帰り、後に、遺体と、僕を含むごく僅かな者だけになると、煙いから線香を消そう、と滅茶な叔母が言う。父は、そういうもんじゃないんだ、と拒む。