金と芸術

 ハンス・アビング『金と芸術−なぜアーティストは貧乏なのか?』読了。


 著者はアムステルダム大学で経済学の教鞭を執る異色のアーティスト。経済という観点から芸術界を支える構造を明らかにしつつ、エンターテイメント業界やスポーツ業界など、関連する事例にも目配せしながら、芸術全般に当てはまる議論を展開する。


 芸術と経済の関係について考えるとき、必読の書。
 以後、芸術と経済の関係について考える者は、ここで示されたテーゼに自分の見解を示すところからスタートせねばならないだろう。


 本書では百を超えるテーゼが、整然と提示される。
 アビングは、芸術家、社会学者、経済学者、三つの視点からの考えを最初に示し、これらを客観的に検討する(決め言葉は「十階から眺めると」)。示されるテーゼのうちには、誰もが首肯し得るものもあれば、芸術家たる著者にとって、自虐的でいまいましいものもある。
 たとえば、「芸術は神聖視されており、その神話体系が芸術の経済を例外的なものにしている」という指摘は、いくつもの考察を引き出すだろう。また、芸術における収入がなぜ低いかについての著者の説明(芸術家は、自己欺瞞的で、自分を過大評価しているギャンブラーである、云々)は、場合によっては不快に感じられるだろう。


 僕にとって、当面、問題にしなければならないのは、行政の助成のことである。
 本書では、助成の効果は疑問視されている。
 アビングは「貧困は芸術に構造的に組み込まれており、助成や寄付はそれらを解決しない、助成や寄付は単に貧しい芸術家の数を増やすだけだ」とする。さらに、「芸術における貧困を減少させることが唯一の目的であるならば、その最良の方法はすべての芸術助成を減少させることである」とも指摘している。
 また、現在、政府が芸術を支援する理由として提示されているもののほとんどは誤りである(が、助成を可能にしている)としている。とりわけ、共同財、外部効果の議論を切って捨てている箇所は、大きな議論になるだろう。
 僕は「助成は、それがあれば、ない場合に比べ、芸術の質を高め得る」という論点が、本書では看過されているのではないかと思う。アビングはこれにどう答えるだろう。


金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか

金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか