グローバル化する文化政策

 佐々木雅行ほか編著『グローバル化する文化政策』読了。


 総論では文化帝国主義、ヨーロッパ都市政策の変化、9・11以後の文化政策など近年の文化政策の流れを俯瞰・整理する。各論ではグローバリゼーションの文脈で、文化政策の持つ問題点を指摘し、文化産業やアーティスト・イン・レジデンス、アメリカ・ドイツ・北欧・シンガポールの各事例を分析・紹介。


 本書では、「グローバル化」というテーマの下、ハリウッド映画興隆の歴史、グッゲンハイム美術館の国際戦略等が扱われる。それらは各論として、細部において有益な情報を含んでおり、それぞれに本書の主題に関連していると思う。(たとえば、“アメリカのテレビ産業も外国資本によって「侵食」されている”という指摘は、僕にとっては考え始める手がかりになる記述である。)
 しかしながら、各論の全体を俯瞰するような考察は示されない。文化政策という分野においては、しかもグローバリゼーションという曖昧な概念を考慮するならば、統一的な分析フレームの設定は相当に困難なことであろうとは思う。とは言え、やはり少々物足りなさも感じる。


 グローバル化という言葉は、何かを指示しているようでいて、一般には、その内実は不明瞭である。文脈を明らかにしながら、慎重に扱うべき術語の一つであろうと思う。
 「グローバル化する文化政策」と言うとき、たとえば、ある特定の文化政策モデルが世界全体に拡散するということが問題になっているのか、それとも、それぞれの文化政策が地球規模で影響を受け(与え)るということが問題になっているのか、俄かには判断できない。これは基本的なポイントであろうが、それでも、そのレベルで既に混乱が生じ得る。
 本書は、そのような意味で、やや精密さに欠ける。文化も、文化政策も、その多種多様な切り口も、統率されぬままに取り扱われているように思う。


 なお、一応付言しておくと、本書は、数年前に書かれた、少し古い原稿も含んでいる。

グローバル化する文化政策 (文化政策のフロンティア)

グローバル化する文化政策 (文化政策のフロンティア)