おぱらばん

 堀江敏幸『おぱらばん』読了。


 とりすました石畳の都会から隔たった郊外の街に暮らす私。自らもマイノリティとして日を過ごす傍らで、想いは、時代に忘れられた文学への愛惜の情とゆるやかにむすびつきながら、自由にめぐる…。


 堀江の文章は息が長い。普通であればもうそろそろ息を切らすであろうところを、もう一つグッと書き連ねる。我々はその過程で、そちこちのものを想起し、また、昔のことを思い出す羽目になる。それが堀江の夢であったか、先ほどの出来事であったか、一瞬見失い、読者は心細い気分になる。


 彼の物語の手続きは、読後に確かめてみると、意想外に定型的である。一つか二つの話と、それらの変奏が緩やかに連結し、やがて終結部へと至る。その中で、時折、細い道を通って広場に出たときのような感覚を興させる。それはほんの一瞬のものではあるが、長く余韻を残す種類のものである。


 堀江の作家としての特質は、僕に須賀敦子のことを連想させる。二人はともにエッセイとも小説ともつかぬ、ただ文学としか名づけようのない文章を書く。もちろんそこには多くの違いがある。しかし、古びた想像が幾重にも重ねられ、翻って、磨かれ、飴色の滑らかな艶を放つという点において、両者はきわめて近しいと僕には感じられる。


おぱらばん (新潮文庫)

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