他者と死者

 内田樹『他者と死者−ラカンによるレヴィナス』読了。


 内田樹を知ったのは、四条・ジュンク堂の店先で、であった。『態度が悪くてすみません』が発売になった頃で、一気に注目を集めていく途上であったと思う。僕は、『態度が…』のまえがきが気に入らず、そのまま書店を離れたが、後日、友人が興奮気味にウチダの素晴らしさを話すのを聞いて以来、すっかり虜なのである。


 その際の友人のことを思い出す。彼は、長く続く学生生活の終盤におり、夜降るキャンパスの一角で、静かにその話をしたのだ。戸外、少し冷たい風が吹く。


 内田は次のように言う。
 主体は、常に他者から遅れた状態に置かれている。自分にはルールの分からないゲームを始めるのが他者であり、そのゲームに知らずの間に参加させられることで主体は成り立つ。そして、どういうルールでそれが行われているのかを知ろうとすることが欲望なのだ。それは他者の欲望を欲望するということなのであり、時間軸に沿って考えれば、他者は主体よりも事前に存在しているということになる。その意味で、主体は他者よりも遅れている、ビハインドの状態に置かれている。
 この種の、白い御飯のように汎用性の高いお話があれば、我々は、それだけで日がな一日語り暮らせるというものだ。

他者と死者―ラカンによるレヴィナス

他者と死者―ラカンによるレヴィナス