とおくてよくみえない

 横浜美術館高嶺格 とおくてよくみえない」展を観る。


 高嶺の特質の一つは、日常の些細なささくれに疑問を持ち、その疑問を作品に昇華するというところにある。それはしばしば世界大の問題に結びつくが、しかし飽くまで高嶺自身のリアルな問題である。と言うか本当は、両者は遠く隔たったものではなく、直結しているのである。高嶺は、それをきちんと視よう、きちんと舐めつくそう、とする。


 彼のもう一つの特質は、考え続ける、ということである。
 出品作の一つに「Do what you want if you want as you」がある。パレスチナ問題について語る女性の映像を編集した作品で、2001年に児玉画廊で発表されたものだが、永らく失敗作として封印されていたのだそうだ。高嶺は、学芸員の要望もあり、今回、同作を再度構成し直す。彼は、作品について拭い切れなかった違和感を、テキストとして作品と併置する。
 先に、高嶺はきちんと視ようとする、と書いたが、同時に彼はそれが極めて困難であることも自覚している。そのことは「とおくてよくみえない」という展覧会のタイトルに端的に示されている。我々は、ちょっとした距離のとり方で、物事を良く視ることができなくなるのであり、問題に寄り添うことができなくなるのである。
 高嶺はそのような困難を知りながら、なお問題の周囲を旋回し、ときには眼をつむり、また行きつ戻りつする。全体像の掴めぬ暗がりの中、指でなぞるようにして考えを進める。そのような作家であるからこそ、10年前の失敗作に感じていた違和感を、今日、改めて考え直すことができたのであろう。


 これらの特質の結果、高嶺は、いつも現場でギリギリまで頭を悩ませることになる。
 書きかけ


 横浜美術館