シンガポール・レポート5

シンガポール3日目。4日目は移動だけなので、実質的に最終日。


シンガポールでは11〜1月が雨季だが、日本の梅雨のように雨ばかりということではないようだ。
滞在中は、ごく短時間小雨がパラついたくらいで、1度も傘は使わなかった。






[National Gallery Singapore]
住所: 1 St. Andrew's Rd, Singapore 178957
開館時間: 日〜木・祝日:10:00〜19:00 金〜土・祝日の前日:10:00〜22:00
https://www.nationalgallery.sg/


2015年11月に新しくできた、アート・ギャラリー。
最高裁判所と旧市庁舎を改修し、二つをつないで一つの施設としている。旧市庁舎はシンガポールの独立宣言が行われた場所で、まさに“ナショナル”な空間と言える。


ギャラリーという名称だが、64,000平米の広さがあり、シンガポールはもちろん、アジア全体で見ても最大級の美術館だ。
2005年に当時の首相が開設を表明して以来、要した総経費はは532百万S$(およそ425億円)。(ちなみに、国立新美術館の建設費(当初予定)は380億円。)
シンガポールと東南アジアの美術の、世界最大のコレクション(8,000点以上)を所蔵している。
シンガポール美術館(SAM)が主に現代美術にフォーカスしているのに比べ、ナショナル・ギャラリーは近代美術を扱うという住み分けがなされているようだ。(もちろん現代美術と近代美術は相互に関連するが。)



館長はユージン・タン。
シンガポールビエンナーレ2006の共同キュレーターや、2005年のヴェネチア・ビエンナーレシンガポール館のキュレーター等を歴任し、シンガポール経済開発庁のプログラム・ディレクターとしてギルマン・バラックスの開発も手がけた。
「Art Review」誌の、2016年の「Power 100」では94位に位置している。






エントランス・ホール。
地下から最上部まで吹き抜けになっており、二つの渡り廊下で、旧最高裁判所と旧市庁舎が結ばれている。
改修はStudio Milou Singaporeが手掛けた。





まずは開催中の特別展「Artist and Empire: (En)countering Colonial Legacies」へ。
会期は2016年10月6日から2017年3月26日まで。

テート・ブリテンと連携しての企画で、16世紀から現在までの、美術における“大英帝国”の表象や、植民地化の経験と近代美術興隆の関係等を、現代的な視点から検討するもの。


上の図はArthur Pan≪Portrait of Queen Elizabeth Ⅱ≫(1953)。
ちょいちょい現代美術の作品も取り混ぜられている。



ちなみに、展示には、東京国立近代美術館所蔵の、宮下三郎≪山下、パーシバル両司令官会見図≫も含まれていた。
第二次大戦で、日本軍がシンガポールに侵攻した際の様子を描いた作品だが、その様子はシンガポール国立博物館の展示でも詳細に紹介されており、今回の滞在中、何度かリフレインすることになる。





最高裁判所のドームが、新しく作られたガラスの屋根・テラスで覆われている。


大きな展覧会としては、「Artist and Empire」以外に、特別展がもう一つ。より長期のコレクション展が二つ。計四つが同時に開催されている。


コレクション展の一つは「Siapa Nama Kamu? Art in Singapore since the 19th century」。
「Siapa Nama Kamu?」は、「君の名は。」という意味だそうだ。
400点近い作品群で19世紀から現在までを網羅し、シンガポール美術のアイデンティティを問う。同時に、“アートを通じてシンガポールを見る”ということがどういうことなのかを検討する。
国立美術館の開館に、誠に相応しい展示と言える。


もう一つは「Between Declarations and Dreams : Art of Southeast Asia since the 19th Century」展。
19世紀以降、東南アジア一帯で共有された美術の状況にフォーカスする展示で、「Siapa Nama Kamu?」と対で見ることが想定されていると思う。
外側からシンガポールの輪郭をクリアにしようという積極的な試みであるだろうが、他方、シンガポールがマレーシアから半ば放逐され、インドネシアとも緊張関係にあった(ある)政治史を思うと、「独立宣言と夢の間で」というタイトルは、少しペシミスティック(ないしはシニカル)にも響く。
・・・
東南アジアにおいて、これだけの作品を一堂に集め、これだけの環境で見せることは、現時点ではシンガポールにしかできないだろう。
穿った見方をすれば、同国が、地域のリーダーとして、東南アジアのアート・ハブとして、美術史を書き起こそうとする、極めて戦略的な(覇道的な)展示であるとも言える。






屋上庭園(Ne Teng Fong Roof Garden Gallery)でも、ヤン・ヴォーのコミッションワークが。
(ヴォーは、幼少時に両親とともにボートピープルとしてベトナムから脱出、デンマーク船に救助され、デンマークで成長した。が、デンマークに辿り着く前に、シンガポールの難民キャンプでクリスマスを過ごしている。)





館内には、イタリアン、中華、シンガポール料理、フレンチ、インド料理など、多くのレストランがある。が、どれも結構高くて、サッとお昼を食べる感じではない。
上図は「Aura Sky Lounge」。
1階のカフェは、手軽に気楽にランチができそう。





「Keppel Centre for Art Education」の1室。同センターは、子ども向けの四つの部屋と、若者向けのエリアを設けている。





ミュージアム・ショップ。デザイン・センターのショップよりも好み。